介護をしている人にとって「施設」というと、長期入所ができるイメージがあると思います。
そんな人に、知っておいてほしいことがあります。
介護老人保健施設(俗にいう老健)は、必ずいつかは退所しなくてはいけない施設です。
いつかは退所しなくてはいけない施設と分かっていても「そんな急に退去命令???」という例外もあります。
今回は、そんな例外的に起こる退去を言い渡された時の、施設側の理由とその対処方法について解説していきます。
解説する人
やっと入所出来た老健から突然の電話が!!
老健から出て行ってくださいと言われた。
急に言われても~~~~!!
路頭に迷いそうで不安いっぱいで検索をたくさんかけ、こちらにたどり着いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
老健から退去を言い渡される理由には、いくつかあります。
- 入院することになった
- 通院機会が頻回すぎる
- 入所期間が長期化
- 問題行動が多発
- 不信感のある家族
実際に老健で数年間、働いていたスタッフ目線から感じた「施設が退去を促す時」の事情について、家族目線で解説していきます。
1.入院することになったので退去を命じられた
老健入所中で直面する一番多い理由が、「入院することになった」です。
入院することになって、ただでも心配なのに!
「老健から退去させられるってことは、それだけ状態が悪いってことなの?」
「退院できても、また一から施設探しをしないといけないの??」
考えれば考えるほど途方に暮れますよね。。。
具体的なケース
基本的に退去を命じられるときは、1週間以上の長期入院が必要となる場合に言われることが多いです。
施設側がなぜこのタイミングで退去を促すのか、考えたことがありますか?
答えは簡単です。
入院期間中にベッドを空けていると、施設はタダ働きになるからです。
施設側の理由
少し難しい話になりますが、日本には医療保険と介護保険がありますよね。
この2つの保険体制は、同日に平行して使うことが出来ないのです。
例えば、施設で肺炎をこじらせて入院を余儀なくされた。
入院している間は、医療保険を使用するので、介護保険サービスが利用できません。
介護保険サービスが利用できないということは、老健施設には入所費用としては一銭も請求できないのです。
または老健入所中(介護保険使用時)に利用者が医療保険を使用する場合は、老健施設が医療費を10割負担で肩代わりしなければいけないのです。
入院となり手術や治療を行うことになると高額になるうえ、その費用を老健施設が10割負担となると老健施設は倒産してしまいます(涙)
なるほど・・・
だから入院になると「退去してくれ」と言われるのか。
ここまで読んで、施設運営の難しさを理解してくださる人が一人でも居てくだされば嬉しいです。
入院で老健退去に対する解決策
老健施設側の退去をお願いするカラクリが少しは理解していただけたでしょうか。
1週間以上の一時退去期間があるなら、空ベッドままにしておくと施設の収益が減ります。
利用者さんには申し訳ないですが、一旦退去していただき、他の利用者でベッドを埋めたいと考えるのが施設の運営者側の思考になるわけです。
では、困っている立場のご家族としてはその逆を突けばいいわけです。
『退院許可が出たら、再入所の相談をさせてください』
実は、この一言を伝えておくだけで印象がゴロっと変わるんです。
恐らく老健施設からの返答は、
『その時に空きがあるとは限らないのでお約束はできません』と言ってくると思いますが、大半は再入所できるはずです。
老健側も病状把握や入院期間などをある程度把握しています。退院許可が出る状態であれば施設生活を継続することも可能なので受け入れ体制を整えられます。
また、先ほど言った『逆を突く』というのは、
施設側としても、まったくの新規の方を受け入れるよりは以前に利用歴がある方を受け入れる方が状況把握もしやすいため介護がしやすい点があります。
すでに方向性(自宅か在宅扱いの特養などの施設の申込済みを確認できている)が決まっている方であれば、退去時期の見通しも経つので安心して受け入れしやすいという施設側の思いを利用するということです。
悪ですね・・・w
施設側は、入院中のその空きベッドをショートステイ(1か月以内の短期利用者)の利用者を入れることで調整していることが多いので、数日の待機期間はあるにせよ、受け入れられる状態にしてくれると思います。
さらに、この待機期間中は病院で入院継続をさせてくれることが大半です。
病院や施設も鬼ではないので、移動の時期が決まっていたら容認してくれることがほぼ9割です。
退院や入所の日が決まっているのに、期間を待たずに追い出すような場所はヤバすぎるので、二度と近づかないようにしましょう。
※再入所を受け入れてもらいやすいのは、もちろん在宅復帰(自宅、または特養などの在宅扱いの施設)をきちんと検討してくださっている場合に限りますよ。
入院後の老健に再入所メリットもあり
骨折や肺炎、脳梗塞などの一通りの治療を終えると、老健施設へ再入所となった場合。状況によってはリハビリできる期間をリセットできるケースがあります。
ぜひ老健に再入所される時に、施設のケアマネージャーさんに確認してみてください。
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2.老健入所中に病院への通院が頻繁にある
入院理由の次に多いのは、皮膚科や老健では処方できない特殊なお薬をもらうために外部の病院に通院される機会が定期的にある方です。
老健側が通院を嫌がる理由
なぜ老健施設が、外部への受診を嫌がるかというと、
医療保険での受診に行かれると、施設からの費用持ち出しになり老健施設が貧乏になるからです。
老健から外出でいく受診は、医療保険(健康保険)が使えずに、10割負担で施設持ちとなるのが基本です。
特例もあり。医療保険が使えることで老健施設に迷惑をかけない場合もあるので老健施設の相談員・ケアマネージャーに確認してみてください。
通院がある場合の解決策
病状にもよりますが、
- 毎月、受診をして医療保険を利用する人
- 3ヶ月に1回の受診で医療保険を利用する人
この2パターンがあるとしたら、絶対的に後者の3ヶ月に1回の受診頻度の方が、老健施設的には助かります。
さらに、病院でお医者さんに相談して、薬局などで購入可能な市販薬に変更してもらうことも有効です。
受診の頻度を少なくなることで、老健施設の負担は軽減します。
処方している主治医と相談し、必要最低限の薬と受診頻度にできると良いですね。
3.老健入所期間が長期化したので退去を命じられた
この記事の冒頭にも書きましたが、老健施設というのは「いつかは退所しなければいけない施設」です。
なぜ?と言われても厚生労働省が決めたルールなので仕方ないです。
そして、その厚生労働省が定める中に、老健施設の施設基準によるレベル分けがあります。
リハビリスタッフの人数や、施設の広さ、何%の利用者を在宅復帰させられたか、などなど。
その基準をクリアした施設は、ランクが上がり、より高い施設利用料を請求することができます。
老健施設が長期入所を嫌がる理由
老健の施設基準には大きく分けて5段階あります。
そのうち、最上位の施設基準を維持している老健施設は、
「入所している利用者の在宅復帰率(退去先が自宅か特養など)を50%以上」
「施設内のベッド回転率を10%以上」
などの厚生労働省が定める項目で加点式でポイントを貯める必要があります。
退所の目処が立っていない長期利用者が多数いると、計画的な運用を行うことが難しくなります。
そのため、長期利用者は老健から退去を促されることがあるのです。
老健入所が長期化している時の対応策
老健施設への入所期間は3〜6ヶ月ぐらいとうたっている施設が多いかと思います。
しかし実際は年単位で老健施設を利用している人がいるのも確かです。
長期入所できている人は、なぜ許されているのでしょうか。
答えは、「次の施設を申し込んでいるから」
自宅へ帰ることが難しい場合は、終の住処といわれている【特別養護老人ホーム】などを転居先として申し込むことになります。
より高い基準をとるためには、入退所の回転率が一定以上であることが施設基準を維持するための条件にあります。
短期間で退去を促し新規入所者を獲得することで、高い料金設定にすることが出来るので運営側としては、長期化を防ぎたい思いがあります。
老健施設もボランティアではなく経営なので、この考えの基で動いていることはご理解をいただきたいところです(汗)
4.老健入所中に問題が多発しているため退去を命じられた
他利用者とのトラブルが続いていたり、ご本人の転倒リスクが高くいつ大きなケガにつながるや分からない。そのような状態にある場合、施設側から退去を命じられることがあります。
家で介護するのが大変だから施設に入ったのに。
問題があるからって退去させられても困る。
そう思いますよね。
そりゃそうです・・・・
安心してください。
決して家に帰れと言っている訳ではないんです。
老健施設からの話の内容を最後まで落ち着いて聞いてみてください。
直接的ではないにしろ、ヒントが隠されているはずです。
問題行動により老健退去を言われる理由
老健施設は集団行動の施設です。
お一人が危険な行為や自分勝手な行動をされていると、周囲の利用者さんにも危険が及ぶことがあります。
特に認知症が顕著にあわられている人を専門的に受け入れている老健施設の場合。
拒否行為や幻聴などで大声を出す人が一人いると、他の人も不穏が広がっていき落ち着く場所を提供できなくなることがあります。
1日や数日で落ち着く不穏行動や問題行動であれば問題ありません。
問題行動があっても老健入所を続ける対応策
たとえば、認知症などで問題行動など多発してトラブルになっている場合には、神経内科や精神科などを受診(入院)を促されていることがあります。
現状では施設生活を継続することが困難ではあるが、認知症などの周辺症状が落ちつけば、再入所を受け入れてくれることがあります。
老健施設には、提携病院があるのが基本なので、認知症などによる問題行動などが生じた時には一時的に入院をしていただき、精神薬などの調整で症状を落ち着かせる治療を行うことがあります。
薬漬けにされてもっと認知症が進むのではないかと心配されるご家族もいらっしゃりますが、適量の内服コントロールにより精神が落ち着き、通常の生活を送れるようになる人も沢山います。
5.ご家族の対応に不信があるため老健退所を命じられた
ご家族の立場では、ご自身で自分に問題があるとは思わないでしょう。
しかし、この中に一つでも当てはまるものがあれば要注意人物として見られている可能性があります。
老健施設が家族に難ありと思う理由
- 施設からの電話連絡があっても折り返しをしない
- 面会頻度が月に1回以下
- 退去後の方向性を決めていない(特養などの未申込)
- 費用支払いに滞りがある
- 介助方法などに要望が多い
一つでも心当たりのある方は、ご家族の協力が得られにくいと老健施設から思われている可能性があります。
家族対応を改善する改善策
施設は、姥捨て山ではありません。
『施設に入れたらおしまい』ではなく、施設に入所したからこその関わりを大切にしていただけたらと思います。
老健施設からの信頼を得るためには、なんと言っても行動で示すのが一番です。
- 老健施設からの着信があればその日のうちにかけ直す
- 最低でも月1回の面会
- 次の方向性が自宅なのか特養などの施設入所なのかをはっきりさせる
一番大切なことは、3つ目の
「次の方向性をはっきりさせる」ということです。
何度も言いますが、老健施設は長期間入所できる施設ではありません。
病院を退院したあと、まだ自宅に帰れない人がリハビリをして生活リズムを整える所です。
ご家族と連絡が取りにくい利用者さんは、面会頻度も少なく、「自宅退所はムリ」とだけ言われ次の施設が未申し込みであることが多々あります。
次の施設が決まっていたら、その入所時期が来るまで老健入所を継続できるケースもあります。しかし、全く方向性が決まっていない利用者さんを無期限で入所継続するわけにはいきません。
老健施設を退去させられそうな人は、今からでも遅くはありません。
特養などの申込を2〜3ヶ所行いましょう。
まとめ
『老健にずっと入所できると思ったら、急に退去を言い渡された』ときの対処方法とその理由についてご説明してきました。
いかがでしたか?
再入所を受け入れてもらいやすくする方法をご説明しましたが、
老健は在宅復帰を目的とする施設であるため、今後も入退院を余儀なくされる病状の方は老健施設への再入所や入所継続が難しいこともあります。
この場合は、病院でのさらなる長期入院の継続や、『療養型病院』という積極的治療は行わないが医療的管理が必要とされる患者さんが転院する病院へ移るなどの案内をされることになると思います。
老健施設で働いたことのある施設側の人間だからこそのアドバイスになりますが、スタッフ側もご家族側も、お互いに尊重し合うことでよい関係性が築けていれば急な退去を命じられることもないかと思います。
もし、他の理由で退去を言い渡されてしまい困っている方がいましたら、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
少しでも皆さんのお力になれるよう、余計なお節介かもしれませんがアドバイスをさせていただきます。
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