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知らないと損していること

【身体抑制】作業療法士が0か100ではない抑制廃止の考え方を説く

 

みなさん「身体抑制」についてどう思いますか?

もし自分の家族に会いに病院や施設に行った時に、ベッドから身体を起き上がれないように胸や腕に抑制帯をつけられていたら。

もし自分が働いている病院や施設で、日常的に身体抑制をされている現場を目の当たりにしたら。

 

この記事を読んでほしい人

  • 認知症があるご家族を持つ人
  • 認知症の人が利用する病院や施設で勤める人

 

私は身体抑制反対派です。

でも、まったくのゼロが良いとも思いません。

 

逃げたコメントだと思われた人もいるかもしれません。作業療法士という立場でいろんな経験をして、結果そう思ったんです。ごめんなさい^^;

 

病院で、不必要な身体抑制廃止のために、医師や看護師を巻き込んでチームを作りました。院内で身体抑制をするときの基準を見直そう、そういった働きかけを行った経験があります。

老健施設で、命を守るために身体抑制を一部認めてはどうか。そういった発言を、施設長や事務長の居る判定会議で申し出たことがあります。

 

どちらも上手くはいきませんでした。

でもこの行動に無駄はなかったと信じています。

 

なぜなら、「いままでは何も考えずに入院してきた人に抑制帯をつけていたけど、本当に必要なのかを考えるようになりました。じつはたまに外す時間を作るようになったんですよね」とコッソリ教えてくださる看護師さんが増えたからです。

 

これは臨床経験15年の作業療法士の経験談です。

この記事を読んで、少しでも身体抑制の在り方について考える時間を持っていただければ幸いです。

 

この記事の内容

  1. 身体拘束とは
  2. どんな人に対して行うのか
  3. 病院で実際にあった出来事
  4. 施設で実際にあった出来事
  5. 家族が出来ること
  6. 医療・介護のスタッフが出来ること
  7. 今後の課題

 

 

身体抑制とは

 

正式には身体拘束。道具または薬剤を用いて、一時的に当該患者の身体を拘束し、その運動を抑制することを言う。

最近は身体拘束とは言わず、身体抑制と呼ぶことが多いです。

「拘束」と「抑制」の違い

この記事を書くにあたり、いろんな資料を読んでいたら言葉が混在していたので調べてみました。

拘束(こうそく):行動の自由をしばること。

抑制(よくせい):あばれ出さないように押さえとめること。

 

自由は奪わないけど、問題行動を押さえ込むという意味に変化してきているんですかね。

身体抑制廃止への流れ

平成12年(2000年)4月にスタートした介護保険制度に伴い、高齢者が利用する介護保険施設等では身体拘束が禁止されました。それまでは、精神科病棟同様に身体拘束が当たり前に行われていたようです。

身体抑制がいまだに廃止しきれていない理由として、「スタッフの人員不足」が多く上げられます。入浴介助・トイレ誘導などで、どうしてもフロアから介護スタッフが不在となることがあります。
しかし、多職種と連携し、業務分担を効率化して見守り体制を工夫して対応している施設等があるのも事実です。

 

身体抑制の3要件

  • 切迫性:命や身体に危険が発生する可能性が高い
  • 非代替性:他に方法がない状態であること
  • 一時性:あくまでも一時的な対応であること

この全てを満たすことが必要と言われています。

 

さらに留意事項として、以下の点も考慮しなければいけません。

  1. 「緊急やむを得ない場合」の判断は職員個人またはチームで行うのではなく、施設全体で判断することが必要である。
  2. 身体拘束の内容、目的、時間、期間などを高齢者本人や家族に対して十分に説明し、理解を求めることが必要である。
  3. 介護保険サービス提供者には、身体拘束に関する記録の作成が義務付けられている。

 

つまり、施設長である医師や事務長の意見も取り入れ、事後報告になったとしても家族には連絡し、ケアプランに随時反映させる必要があるということですね。

現場の判断で身体拘束はしてはならない。逆を返せば、きちんと審議された結果、身体抑制を行うことは認められている。決して介護施設等において、身体抑制が禁止されているわけではないということです。

 

身体抑制の種類

ベッド上で使用

  • 胴体周りに巻きつけ起き上がれなくする胴抑(どうよく)
  • 手首を紐でベッドに結んで、顔や胴体を触れなくする手抑(しゅよく)
  • 足首を紐でベッドに結びつけ、蹴ったり足をベッド外へ出せれなくなる足抑(そくよく)
  • 手袋型で点滴などを自抜(じばつ)できないようにするミトン

車椅子上で使用

  • Y字型の紐で車椅子からのずり落ちや立ちあがりを防ぐ転落防止用ベルト

 

実に色んな種類があります。

もしかしたら、病院から「ミトン型の抑制手袋を持ってきてください」と言われた方もいるかもしれませんね。

 

外国での対応

アメリカでは、1991年行われた調査で、介護施設に入所している約32%が身体拘束を経験しているという報告がされたそうです。
この調査結果を受けて、規制を実施し事態が改善されるつつあるそうです。

イギリスでは、この20年近く身体抑制は規制され、ほとんど身体抑制は行われていないそうです。

 

 

どんな人に対して身体抑制を行うのか

特に環境の変化などで、一時的な幻覚・妄想などのせん妄がある人が身体抑制の対象になることがあります。

 

身体拘束は、「緊急やむを得ない場合」という文言があります。しかし実際は、十分に検討することなく「やむを得ない」と安易に身体拘束をしているケースがあります。

病院で実際にあった出来事

ベッドから少しでも自分で起き上がろうとするものなら、胴抑。オムツ交換の時に足でスタッフを蹴ろうとするものなら、足抑制、点滴を抜いたら手抑制・ミトン、オムツいじりがあったらつなぎパジャマに変更。

病院は治療を最優先に行うところなので、身体抑制は治療の一環と理解されやすく、働くスタッフも家族も疑問を抱きにくいのかもしれません。

施設で実際にあった出来事

介護老人保健施設などの介護施設では逆に、転倒を1時間に複数回繰り返す人に対しても身体抑制はしません。

なぜなら、介護施設は身体抑制をしていると知られると、入居希望のお客さんが減るから。ここが病院との大きな差につながっているのかもしれません。

 

個人的な身体抑制に対する意見

でもこれって、なんか変じゃないですか?

病院は治療をする場所なのであれば、身体抑制をして心まで傷を負わせてはいけないと思います。施設は生活を保障する場所なのであれば、骨折や頭部外傷で命にかかわらないように体を守らなければいけないと思います。

「〇〇は△△しなければいけない」、0か100かで物事を考えるのは良くありません。世間体や組織運用に対しても理解を示しながら、物事を捉えていきたいと思っています。

 

しかし!そうはいっても、病院や施設の方が0か100の思考で凝り固まっていると思います。

特例があったっていいじゃないですか。

 

今回、この記事を書こうと思ったのは、病院や施設に大切なご家族を預ける立場にある、そのご家族に、いまの医療・介護の世界の状況を知っておいてほしいと思ったからです。

そして、現場で働くスタッフに、少しでも身体抑制について自分の考えを持っておいてほしいと思ったからです。

 

 

家族が出来ること

身体拘束が嫌であれば、このように伝えれば大丈夫です。

「いかなる事態が起こっても、病院・施設側に責任を負いません。本人のあるがままを抑制せず対応してください」

ただし、ご家族にもこの言葉に責任を取ってもらわなければいけません。

 

  • 病院や施設から連絡が来たら、すぐに駆け付けること。
  • 必要と言われたら、泊まり込みで見守りに来てくださること。

これを行ってくださるのであれば、病院・施設側もご家族とご本人の意思を尊重することができると思います。

お預かりしたからには守る責務があります。

いくらご家族が「ケガしても大丈夫ですから」と言われても、私たち医療・介護のスタッフにはお預かりしている方を守る責務があります。なんとしてもお怪我がないように見守りを強化します。

しかし、他にも守るべき人がいるため、ご家族の協力が必要不可欠となることをご了承ください。

 

医療・介護のスタッフが出来ること

病院で働くスタッフは、身体抑制が当たり前となっていませんか?

「先輩がやれっていうから」

分かります。その気持ち。逆らえないですよね。

 

では人を痛めつけなさいといわれたら、痛めつけるんですか?しませんよね。

本気で改善したいなら

身体抑制が日常的に行われている病院では、一度スタッフを身体抑制してベッドギャッジアップして10分放置にしてみたらいいと思います。いったいどんな気持ちを患者さんが抱いているのか。まずは知ることから始めてみてはどうでしょう。

※下記に、より具体的な対応策をリハビリスタッフ向けに提案しています。介護・看護スタッフの皆さんにも実践していただける内容かと思います。

 

今後の課題

昨今、身体抑制防止のための勉強会や研修などが多く開かれています。

でも、全員が全員「身体抑制はよくない。廃止しよう」という気持ちで参加しているわけではありませんよね。

本気で身体抑制を減らすためには

介護・医療に関わるスタッフの意識改革が、本気で身体抑制を減らしていくためには必要です。

そのためには、『考えるな、感じろ!』実際に自分が身体抑制をされてみることだと思います。

もし、病院や施設で身体抑制廃止に向けて頑張っているならば、是非1人5分で大丈夫です。手抑やミトン、胴抑で縛っちゃってください(苦笑)

 

リハビリスタッフが身体抑制に対してできること

  • ベッド上リハビリだとしても、その時間は抑制帯を外す
  • 身体抑制の抑制帯を外す時間を増やせるように、落ち着いている時間帯を探る
  • どの時間帯、どのような状況だと、危険行動はなく抑制帯を外せる状態にあるのか、多職種と情報共有
  • 「抑制帯なんかなくても大丈夫ですね~」と大声でナースステーションで雑談する

これ、やってみてください。意外と効果あります。

 

 

最後に

どうか、病院や施設で働くスタッフは、身体抑制に対して「この人には本当に必要なのか」と疑問に持つことだけは忘れないでください。

結果、身体抑制することになっても仕方ないと思います。
でも、頭の中まで周りの思考に縛られないでください。
現場では何もできなかった口だけ作業療法士からのお願いですが、どうか賛同してくれる人が増えることを祈っています。

 

・転倒・転落を防ぐために、身体抑制をしない私流解決策について

・問題行動(徘徊、点滴自抜、オムツ外し)に対して、身体抑止をしない私流対応方法について

※ 順次、記事を更新していく予定です。

Twitterで新作記事を案内しているので、フォローもよろしくお願いします。

 

 

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  • この記事を書いた人

やまざき

【介護相談×作業療法士】 誰かの介護解決のキッカケに☆ 『できるんです!』行動に変化をおこすお節介コンシェルジュ 急性期リハ・回復期リハ・訪問リハ・老健・デイケアなどを経験。

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