2000年に介護保険制度が始まり、2012年度の介護保険制度改正では医療と介護の連携の強化がされ、24時間対応の定期巡回・臨時対応型サービスなどができ、在宅介護サービスの幅が広がってきました。
ひと昔前は、脳梗塞や骨折により、自宅で生活を送ることが難しくなった高齢者は老人介護施設などに入所。しかし現在は、在宅介護で高齢者を支えるのが当たり前に考えられています。
この在宅介護、介護期の延長化や要介護状態の重篤化、認知症の悪化。家族に求められる介護ケアの内容は年々増しているにも関わらず、在宅介護は家族による介護を前提とした状況が現在も続いています。
在宅介護をする介護者って辛い?
実際に在宅介護における、家族の負担はどの年代にどの程度あるのか。複数の文献や調査を読み解き、在宅介護に長年関わってきた作業療法士の視点から解読しました。
- 介護の年齢、要介護者の年齢
- 在宅介護となった理由
- 介護サービスの利用状況
- 仕事をしている女性が介護者の場合の悩み
このような内容についてデータを読み解いていこうと思います。
「介護者と要介護者の年齢」について考えていきます。
参考にした資料は
- 国民生活基準調査(厚生労働省)
- 在宅介護のお金とくらしについての調査(家計経済研究所)
※厚生労働省が行っている国民生活基礎調査は3年おきに大規模調査を行っています。
【介護者の状況】10年間の変化
ここでいう『介護者』とは、在宅介護にて高齢者の身の回りの世話をしたり生活の手助けをする人を指します。
2010年と2019年に行われた調査結果より、この10年間での介護者の世代変化やその負担の変化を調べてみました。
2010年は、50~60代の女性が80代の実母介護
2010年に行われた国民生活基準調査の結果です。
在宅介護において、主な介護者の構成割合は、配偶者や子、この配偶者が介護者となる「同居世帯」が64.1%で最も多い。次いで訪問サービスやデイなどの「事業者」が主な介護者となっている世帯は13.3%。「別居の家族等」が主たる介護者になっている世帯は9.8%となっている。
やはり訪問介護などの在宅サービスの利用回数よりも、同居家族による介護量の方が多いという結果になっていますね。
年齢階級別にみると、男女ともに介護者の年齢は「60~69歳」が31.3%で一番多いが、50代も28.4%で多く、50~60代が在宅介護を担っていることが読み取れます。
驚きなのが、この2010年頃より男性・無配偶者による介護が増え始めています。
要介護者(介護される人)は、80代の実母を介護している人が全体の約3割と最も多くなっています。
つまり、50代の子供によって80代の親が在宅介護している世帯が多いのが、2010年の傾向でした。
2019年度の調査 60歳以上の女性が90歳以上の実母介護
2019年の國人生活基礎調査では、要介護者と同居している介護者は54.4%。次いで「別居の家族等」が13.6%、事業者が12.1%
断トツ同居している人が介護者となっていることが多いですが、その介護者のうちわけは、配偶者が23.8%で最も多く、子が20.7%。
男女差で見ると男35.0%に対して女65.0%。
年齢階級別にみると、一番多いのは60~69歳の31.8%だが、2番目に70~79歳が29.4%となり、在宅介護を行っている介護者が60代以上の世帯は約73%にもなります。
2019年は、60歳以上の女性が90歳以上の要介護者の在宅介護を行っている割合が一番多くなっています。
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10年間での具体的な変化
2010年と2019年のデータをみてきました。ここからは、この約10年間の2つのデータから読み取れる具体的な変化を考察していきます。
介護者と要介護者の年齢の上昇
2010年頃は、50代の子供によって80代の親を在宅介護している世帯が多かった。約10年が経ち2019年以降は、60代以上の子供によって80代後半の親を、同居している娘が介護している世帯が増えている。
老老介護とは、介護者が65歳以上になり、要介護者も65歳以上であることを指します。
現在でも60代後半の介護者が増え始めている現状をみると、すでに老老介護になっているといえます。
超老老介護って?
介護者と要介護者が75歳以上であることを『超老老介護』といいますが、この割合も2019年の段階で約33%となっています。
図. 同居の主な介護者の年齢階級(%)
50~59歳 | 60~69歳 | 70~79歳 | |
2010年 | 28.4 | 31.3 | 21.0 |
2019年 | 20.1 | 31.8 | 29.4 |
主たる介護者が「事業者」であるケース
一方で、主要な介護者割合を見ていると、事業者12.1%というデータもあります。
これは訪問介護やお預かりデイ、ショートステイなどを上手く利用して、仕事を継続しながら介護サービスを頼って在宅介護を継続しているケースと考えられます。2010年に比べると13.3%から1%減少の12.1%ではありますが、約1割が介護サービスをフル活用して在宅介護を実際に行えていることが分かります。
夫婦介護から子介護へ移り変わるタイミング
介護者や要介護者の年齢階級別のデータを見ていると、他にも気づくことがあります。それは、夫婦介護から主たる介護者が子どもに変化する時期について。
同居の主な介護者と要介護者等の組み合わせ
同居で在宅介護を行っている介護者と要介護者の年齢階級別にみると、「70~79歳」の要介護者等は同世代で介護している割合が56.0%。
要介護者が「80~89歳」になった途端に、介護者が80代である割合が16.2%に激減します。80歳以降の要介護者の介護者で最も多いのは、50~59歳が31.6%と最も多い世代に変化します。
日本人の男性寿命が81.64歳で女性が87.74歳という2020年の最新のデータから見ても、旦那さんが先立ち、残された奥さんが子ども世帯と同居を始め介護が必要になっていく様子がうかがえるデータであると考えました。
つまり、子ども世代に両親の介護の必要性を迫られるのは、親が80歳を過ぎた頃といえるのかもしれません。
介護時間の構成
同居の主な介護者の介護時間の構成をみると、要支援1~要介護2までは「必要なときに手をかす程度」が一番多くなっています。しかし要介護3を皮切りに、2~3時間以上の介護を要する割合が63.2%に急増。
介護時間が「ほとんど終日」の同居の主な介護者は40.9%が女性の配偶者で、次いで女の「子」が19.8%。
要介護者の要介護度別の世帯構成データをみると、要介護4と要介護5になると在宅介護を行っている総数が一桁台のパーセンテージになっています。要介護3になると、介護を必要とする時間も増えることから、要介護4以上になると施設入所などを検討する時期になっているのかもしれませんね。
まとめ
作業療法士として15年間、病院や訪問リハビリ・デイケアなどで在宅介護で暮らしている高齢者をたくさん看てきました。
その中で思うことは、「要介護度なんて関係ない。家族がどう思うか」これにつきると思います。
リハビリやケアマネージャーなどの介護スタッフからみたら、歩けるし認知症もないし「まだまだ在宅介護が可能」と思う人でも、家族は在宅介護に限界を抱いていることもあります。
逆に、私たちから見ていても「もう在宅介護は限界じゃないか」と思う人でも、家族は「最期まで家で過ごしてほしい」と熱い想いを抱いていることもあります。
どちらが良い・悪いではなく、どちらも家族が思う正直な考えです。それを汲み取って、その時の必要な情報を提供できればと私は思っています。
人生100年時代。
長生きする傾向にある女性は、子育てが終わっても50代から介護が始まることを念頭に、人生設計を考えた方がいい時代になってきているのかもしれないですね。
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